演劇ブックレビュー 第18回


別役実『別役実のコント教室』白水社、2003年

 劇作家にとって「笑い」の追求は永遠のテーマであるといえます。別役氏も実際、現代の演劇の中では笑いでペースをつかみ、進めていくことが重要視されているといっていますが(pp.10-11)、笑いなしで舞台を進めていくことは、よほど精巧なストーリー構築技術があっても大変だと思います。でも中途半端な笑いはかえって舞台を盛り下げますし、そこにはセンスが要求されると思います。


 他方、笑いを追求した寸劇は「コント」と呼ばれますが、お笑い界の台頭によりコントもだんだん市民権を得ているような気もします。コントをつなげたオムニバス形式の公演も増えていますし、コントから演劇の世界に入ってくるような動きもあるようです。


 だからといってコントの台本の書き方は所詮これまでは演劇の延長でしかありませんでした。本書は不条理劇とコントの第一人者、別役氏がコントの書き方をわかりやすく教えてくれます。コント作者のみならず、演劇の中で笑いを入れていきたい人、そして笑いとは何かを考える上でも貴重な示唆を与えてくれる本です。
 本書は別役氏のコント教室(セミナー)全7回の様子をそのまま本にしています。第1日はさまざまな劇作家の例を出しながら、コントにしかならないアイデア(コント種)が芝居になっていく現状と、そのための方法を学ぶという方針説明から始まります。そしてコント作家になるにはたくさん書くこと、そして先行作品を手直ししたりして模写する練習の重要性、そしてジョーク集や一こままんがを材料にストーリーを作ることによって自分の色とスタイルを磨いていくことなどがすすめられています。


 2日目は「笑い」の分類からはじまります。くすくす笑い、普通の笑い、爆笑、「うねる」の4段階です。それをじょじょに解きほぐしながら大きな笑いを引き起こし、最終的に「客を笑い殺す」(p.22)、これが最終目標だと訴えます。笑い殺す、笑いに生きる者の夢ですね。そしてそのためには笑いの種類を押さえることが重要です。言葉遊び、即物的笑い(転んだり度ついたり)、形象の笑い(痴態やキャラクター)ときて、コント作家が狙うのはその上にある「関係の笑い」です。それと並ぶ不条理の笑いとはちょっと違うのですが、『たとえば、ケーキだと思っていたものが爆弾だったというふうな、あるいは、爆弾をほとんどケーキだと思って取り扱っていましたというふうな情景。それが醸し出す笑い』(p.23)だそうです。これは感覚的につかんでいくしかないのでしょうが、この関係の笑いを追求していくことが作家の役目です。それと僕も目から鱗なのですが、不条理の笑いというのはどっかんどっかんこなくても笑いの一種であるが、あとでもふれていますが関係の笑いの中で使うことで最大の威力を発揮するということです。このあたりを理解していないときっとひいてしまうコントを作ってしまうんだろうなあと思いました。この笑いの種類と同じように、すこし先取りしますが、第一次感覚と第二次感覚の分類も興味深いです。ふつうの感覚である第一次感覚とは違った、第二次感覚の獲得が、うそや創造性につながるとされています。


 コントの構築は虚構を作り出すことですが、そのいかがわしさともいえる感覚が喜劇を育ててきた、エネルギーになってきたという主張にも同調します。喜劇作家が芸術家といわれて表街道に持ち出されてきたことで、喜劇が喜劇精神を失いつつあるという(pp.31-32)主張は、今の音楽業界の低迷にも当てはめられると考えられます。そのあとは自身の著作『道具づくし』星新一『進化した猿たち』によって、トレーニングの方法が記されています。実際これは誰でも実践できて、かつ力がつきそうだと感じました。
 そして3日目からは、セミナーに参加した人の書いたコントを添削する形で、実際のコントを書くテクニックを教えてくれています。それらは非常に実践的でためになるものばかりです。でも何がすごいって、別役氏が「こうやるともっといい」というポイントが当を得すぎていることです。すべてが的確で、またよりよい例としてあげる別役氏自身のつくった例などは、ほんとおかしくてしかたないという感じです。「爆弾って、山猫のにおいがするじゃないですか」には、ナンセンスの使い方の神髄があると思いました。この的確さは、氏の指導が間違いなく信頼に値するという何よりの証拠です。


 3日目はストーリー思考とプロット思考の違いを理解し、そのように理解することの必要性が提示されています。戯曲・コントはプロットを積み重ねて作る建築物であるという主張(p.86)はうなずけます。5日目はコントを積み重ねて一本の芝居にするという問題に一つのヒントがあります。6日目は『名画劇場―別役実のパロディ・シアター』台詞によって時間を表現する訓練、7日目は最後に日常の出来事をコントにいかにできるかということで世の中を見回す重要性を指摘しています。メール心中の例はほんとにおもしろいです。
 ひょうひょうと話す別役氏の顔が思い浮かぶような(お会いしたことはないですが)、自分の言葉で時に熱っぽく、時にテクニカルに講義したすべてがつまっている本ですね。ほんとにおもしろかったです。コント作家ならずとも、劇作に興味を持つすべての演劇人、そして笑いに興味を持つすべての演劇人必読です。本書のような本がもっと出版されることを望みます。



(2004年6月27日)

購入される方はこちらからどうぞ。また別役氏の他の著書としては、

などがあります。


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