演劇ブックレビュー 第19回


松涛アクターズギムナジウム(監修) 『基礎から始める殺陣・アクション入門』雷鳥社、2004年

 芝居の中でアクションシーンをいれてみたいと思った時、殺陣のシーンをいれてみたいと思った時、みなさんはどうしますか?

  1. 適当にかっこよく作ってみる。
  2. 空手部や剣道部の友達に考えてもらう。
  3. 映画や時代劇などをみてまねする。

 まず1。アクションシーンや殺陣は適当に作ったらお客さんにも「適当に作ったな」と思われるでしょう。映画などでアクションをみているお客さんも多く、それはそれで見破ってしまうことでしょう。また、適当に作ったシーンは、アクションや殺陣としての「流れ」に欠けていることがしばしばあります。人気時代劇「暴れん坊将軍」の白眉はそのスピード。とてつもなく速く、それでいてまったく無理のない動きで、どんどん人を倒していきます。あのスピードは綿密に計算された「流れ」があってこそ可能であり、それは素人にはなかなか難しいものだと思われます。また刀の持ち方や振り方はそれはそれで難しいものであり、そういうところから舞台のテンションを下げてしまう恐れもあるでしょう。

 では経験者の力を借りればよいではないかということで2なのですが、これはこれで問題があります。なるほど空手部や剣道部、およびその経験者は競技、スポーツとしての格闘技については豊富な経験を持っていますが、実際それが舞台の上ですぐに使えるかというとそうもいかないようです。それはお客さんに「見せる」ためにつくられていないので、お客さん、特にアクション映画などが大好きな人が見ると、ずいぶん退屈にみえるらしいのです。大河ドラマ「新選組!」ではさまざまな役者の殺陣を見ることができますが、だいたいの人は「地味な殺陣」を演じています。そもそも刀の持ち方や振り方がなってない人がほとんどです。剣道経験者もいるらしいのですが。そんななかに一人だけすばらしい殺陣を演じているのがオダギリジョーです。彼はもと仮面ライダーですから(主観ですが)当然一通りのアクションはできるわけで、それは与えられた殺陣の動きをまさに「演じている」わけです。そう、アクションシーンや殺陣は「格闘技」ではなく「演技」なのです。

 じゃあ実際演じられている動きをまねして作ればいいんだということで3です。これは「見せる」演技をしっかり演じているわけですから、おあつらえ向きだと。でもそれ以前にわれわれは格闘家ではないので、あまり高度なアクションはできませんよね。ジャッキー・チェンの映画のやられ役の人は、ジャッキーに殴られると空中で2回転ひねって倒れたりしますが、無理無理無理無理ですね。そうなると映画や時代劇でやってるシーンをできるようにブレイクダウンして使うということになり、手間がかかったり、見映えがしなくなってしまったりします。
 となると舞台の中でアクションシーンや殺陣を取り入れるにはどうすればよいのでしょうか。
  • アクションや殺陣のワークショップで学び、そのあと映画や時代劇のアクションシーンや殺陣を真似してつくる。
  • 本で基本的な部分を勉強して、そのあと映画や時代劇のアクションシーンや殺陣を真似してつくる。

 ということになるのではないでしょうか。ワークショップについてはワークショップ情報をチェックしていただくことにして、今回ご紹介するのは、そのための実用的な本です。

 本書はアクションや殺陣について、とても実践的なアプローチで解説しています。殺陣には技術と心構えが重要であるとし、調子に乗っているとけがをしてしまう、させてしまうということになります。また「刀を『思い切り振り回すこと』と『大きく振ること』は似て非なるものです」としています(p.2)。その上で本書は、基礎知識のパートと、それを利用したシーンに使える立ち回りの演出プランのパートに分かれています。

 第1章は「殺陣・アクションを知る」。いきなり武器の種類や日本刀の特徴から始まり(小道具作りにも便利そう)、立ち方、歩き方、着物の着方、受け身のとり方にいたり、解説しています。ここから学ぶということが意義があります。

 第2章は「殺陣を学ぶ」。刀の持ち方から構え、斬り方、そして斬られ方と解説しています。斬られ方がポイントですね。誰もが知りたいのにどこに書いてあるかわからなかったところ。その他刀だけではなく槍の使い方も教えてくれます。

 そして第3章は「殺陣を操る」。ここでは実際に舞台の上ですぐに使える一連の殺陣のパターンが何種類も掲載されています。1対1の息詰まる殺陣から1対多の殺陣までそのパターンは豊富です。これをすぐに芝居の中に入れてもいいですし、これを基本パターンとして劇団内で練習してみてもいいかもしれません。

 このように刀の持ち方から殺陣まで、基本から応用と余すところなく教えてくれているのがすばらしい点ですね。
 この本は前半は殺陣ですが、後半はアクションについて掲載しています。第4章は「アクションを学ぶ」。基本の型を解説していますが、ボクシングスタイル・空手スタイル・合気道スタイルと分けて解説しているのが興味深いですね。役者によって使い分けられます。

 そして第5章は「アクションを操る」。実践編ですが、ボクシング対ボクシングのみならず、それらを混合したアクションシーン、そして1対1から1対多のアクションシーンとバリエーションも豊富です。最後のアクションのパターンには刀を持っている人もいて、読んでるだけでよく考えられているなあと感心させられます。



 本書はアクションシーンや殺陣を芝居の中に取り入れたいと思う劇団、またアクションを少しでも練習したいと思う劇団にとってうってつけの本です。本書のような本がもっと出版されることを望みます。


(2004年6月27日)
(大根田さん@雷鳥社さん、お知らせありがとうございました。)

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