演劇ブックレビュー 第9回

須田泰成「モンティ・パイソン大全」洋泉社、1999年

 演劇に携わる人、特にギャグのお芝居をクリエイトしていく人は、どこかで「モンティ・パイソン」というグループの名を聞いたことがあるでしょう。1970年という時代に、既存の常識を次々とうち破る、しかも高度に計算されたギャグでイギリスを笑いの渦に巻き込んだこのグループのギャグは、そのナンセンスぶりから、日本人はすんなりと笑えないというイメージ、あるいは経験をされてきました。本書はその内容を解説するとともに、「コメディ界のビートルズ」と賞賛された同グループのクリエイティビティをあらためて感じさせるものです。
 「モンティ・パイソン(Monty Pyshon)」は、1970年代初頭に、テレビのコメディ番組「モンティ・パイソンズ・フライング・サーカス(Monty Python's Flying Circus)」で、斬新かつ画期的なギャグでコメディ界に革命を起こした6人組のグループです。本書ではその番組が始まるまでの歩みと、番組の全内容の紹介、そしてその後の活動について詳細に記述しています。それによるとそれまでのイギリスのコメディ番組といえば、「長さ三分ほどのスケッチ(コント:註1)が順番に並ぶようなものがほとんどで、ひとつの作品というよりは単なる“スケッチの詰め合わせセット”というのが普通の形であった」(p.29)そうで、それが終わると司会者が次のコントを紹介するという、流れのないブツ切れの番組だったそうです。モンティ・パイソンはそれを根本的に改め、6つの原則(見え見えのオチをなくす、自分たちの書いた台本を自分たちで演じる、など)を基本に、これまでのタブーを破る番組を作り上げています。おそらくビデオを見たことのある人が抵抗を感じるアニメーション部分は、コントとコントの間のテンションを下げずに、流れを維持する重要な役割を果たしていたことがわかりました。われわれが芝居で使う、いわゆる「伏線を張る」ようなギャグ(ランニング・ギャグ)を効果的に使ったのもはじめてだそうです。こうしてパイソン前後の構成を比較してみ驍ニ、芝居づくりに必要なことが何か、見えてくるような気がします。
 番組開始までの概要のあとは、番組で作られたすべてのコントを解説しています。ビデオを見たことのある人の感じたいまいち感の、もう1つの原因がここで明らかになります。それはその当時の社会情勢や、イギリス独自の文化に由来する笑いがふんだんに盛り込まれているからです。決して彼らのコメディが難解でわかりにくいわけではなく、当時のイギリス人なら誰でも知っていることが、ネタによく使われるからです。本書の解説はそのような部分を詳細に、わかりやすく説明しているので、深く理解したい人にはもってこいです。たとえば「天才バカボン」のバカボンのパパは「バカ田大学」出身ですが、日本人ならこれが早稲田大学のパロディであると誰でも知っていますよね。これと同じような感覚のネタがよく使われているので、よくわからないという人が出てくること、それさえわかれば、コントがより楽しめることが、解説を見るとわかります。

 しかし彼らの真骨頂はそのようなイギリス人向けのネタではなく、どこまでもばかばかしさ、ナンセンスを追求した、いわば「天才的なばかばかしさ」ともいえるギャグにあります。これから見る人のために内容は紹介しませんが、モンティ・パイソンのコントは大きく、言葉で笑いをとるコントと、アクションで笑いをとるコントの2つに分かれます(註2)。以前日本でもブレイクした「Mr.ビーン」はアクションで笑いをとる方(この番組もイギリス)ですね。そのどちらのコントも、笑いの基本を押さえつつ、常人の及ばないクリエイティビティが発揮されていて、何回見ても飽きません。

 そしてもう1つの要因は、メンバーそれぞれが個性を持ち、台本をよりおもしろくする素晴らしい演技をするからです。脇役に徹する人などいません。お互いがお互いをサポートしながら、終わってみれば全員がおもしろかったといわざるを得ないような特徴を全員が持っています。その演技やキャラクターは、演劇人ならかならず得るものがあるはずです。

 第4シリーズまでの内容を解説したあとは、名作「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」をはじめとする映画の解説、そしてメンバー解散後のそれぞれの活動を紹介して終わっています。
 本書を読んで思うのは、やはり本当におもしろいコントは基本となる要素を押さえて作られているということでしょう。おもしろいと思うことは国によって、文化差によって異なります。アメリカは効果や大げささ、ちょっと下品なギャグが中心ですし、イギリスでは風刺の効いたブラックなジョークがよく受けます。日本では漫才に代表されるおもしろい話の流れ(あるいはボケ−つっこみ)や、バラエティ番組のようなアドリブ的な笑いが好まれます。日本のテレビ番組でコントで成功するのはかなり難しく、コントのコーナーでも同じキャラクターが何週にもわたって出てきたり、だんだんコント以外のコーナーが増えてきたり、なんだか素人を番組に参加させてマジになるのを笑いにしたり(これはそもそも笑いじゃないですが)するのは、コスト以外にこのような要因があると思われます。しかしわれわれ演劇人は、笑いをとるためにはやはりコント、あるいはそれを長くしたシーンでやっていくのが常道でしょう。そして世界広しといえど、コントの歴史とそれに基づくノウハウを一番もっているのはイギリスです。そして多くのバンドが何年たってもビートルズをお手本と考えるように、コメディ界に革命をもたらしたモ塔eィ・パイソンのコントから、学べるところは必ずあると言っていいでしょう。何より、構成作家をいっさい使わずに自分たちのやりたいコントだけを自分たちでつくって自分たちで演じ、笑いをとるためにあらゆるタブーをうち破ったメンバーの姿勢は、人を笑わせたいと願うすべての演劇人に勇気を与えてくれることでしょう。
 本書はモンティ・パイソンというグループのあゆみとコントのおもしろさを詳細に解説しています。彼らのコントは「笑いとはどういうものか」という演劇人の永遠の問いに明確に答えた1つの型であり、それを深く理解するのに役立つでしょう。その意味でも、本書のような本がどしどし出版されることを望みます。


(1999年12月21日)


註0:また演劇書ではない本をレビューしてしまいました。それにちょっとモンティと笑いに対する思い入れが先行して、後半は特に、主観たっぷりになってしまいました。ごめんなさい。1つの意見としてお読み下さい。
註1:「コント」は"conte"。確かフランス語が語源だったと。英語では"sketch"が使われます。
註2:イギリス人メンバーは全員、ケンブリッジ・オックスフォード出身で、めちゃめちゃ頭がいいです。ケンブリッジ出身のJohn Cleese,Graham Chapmanが言葉のコント、オックスフォード出身のTerry Jones,Michael Palinがアクションのコントを作ります。もう一人のケンブリッジ出身、Eric Idolは独自路線で、英語や音楽をいかしたコントを作ります。あと一人のメンバー、Terry Gilliamはアメリカ人。アニメーションを担当し、時々コントに出演。今は「12モンキーズ」「未来世紀ブラジル」などの映画監督として活躍中。

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